90歳になる老女の話。
彼女の夫は9年前に亡くなった。旦那さんとは60年近く連れ添ったと言う。
「喧嘩というものをしたことがなかった、ただの一度も」
そんな夫婦も存在するんだー、と、びっくり。 わたしからすれば夢物語のよう。
「ご主人に対して、嫌だなーと感じる場面とか賛成出来ないこととか、なかったの?」
そう訊いてみた。彼女はしばらく考えてから、なかったわ、と言う。それから、こんな話をしてくれた。
彼女の夫は農業を営んでおり、彼女は専業主婦だった。彼女はいつも、夫の帰る時間を見計らって食事の仕込みをしておく。そして、夫が帰って来るであろう直前まで待ってから料理を仕上げた。そうすることで、「いつもフレッシュで美味しい料理を食卓に出したのよ」
ある日、夫の帰りが遅かった。 彼らの農地は広大だったので、予期せぬトラブルに時間を要し作業が遅れることも多々あった。なので、今夜も何かあったのだろうと思いながら、じっと夫の帰りを待った。夫が帰ってくるのがよく見える窓際に座り、ずっと外を眺めていた。が、待てど暮らせど、夫の姿は見えない。こんなに遅くなることは今までになかった。何かあったのかもしれない。不安を拭いながら外を見る。
と、やっと、夫の姿が見えた。良かった。彼女はほっと安堵した。同時に、料理のことを思い出した。彼の帰りがあまりにも遅かったので「仕上げ」から随分と長い時間が経ってしまっていた。あれではせっかくの料理が台無しだ。
夫は、待っている妻の姿に気付き、笑顔で手を振った。それを見た彼女は、ちょっとした悪戯心がわいたのだそう。「彼にわたしの気持ちを知らせなくちゃ、って思ったのよ」
夫が着替えている間、彼女は食卓の準備をし、テーブルに座って彼を待った。
「彼には何も言うまい、って思ってたの。で、わたし、どうしたと思う?ふふふ、あのね、エプロンを裏表、逆につけたのよ。そうしておいて、彼の来るのを待ってたの」
さて、ダイニングルームに来たご主人、彼女の姿を見てどうしたか。
彼は妻のエプロンにすぐに気付いたのだという。そして、その状況をすぐに理解し、彼女に謝ったのだそうだ。遅くなって心配かけたね、実はこんなトラブルがあったんだよ、思った以上に時間がかかってしまった、悪かった、云々。
わーーーーーっ。まるで大草原のちいさな家のPa(父さん)じゃないか!!!穏やかな旦那さん、ちょっと茶目っ気のある奥さん。
「今の人達は夫婦で大声で言い合ったりするみたいだけど、わたしたちはそういうことがまったくなかったの」
これは時代のせいなのか?とも思ったが、そうではないと思う。たまたま彼女と彼女の夫がそういう関係だったのだろう。なぜなら、うちの施設の同じ世代の入居者から、これとはまったく違った夫婦の形というものを聞かされたことがあるから。(これはこれで、また面白い話だったけど!)
まぁ色んな夫婦がいて当たり前だ。
cream soup with shrimp and nappa cabbage |
写真は昨夜つくったスープ。残ってた白菜を使い切りたかったので苦し紛れに作ったやつ。海老が思った以上にプリプリしてて美味しかった。にんにくと白ワイン、ちょっとだけ唐辛子も入れた。
この前、家族3人で食事に出かけたとき、たまたまわたしと夫と一緒に座り向かい側にこころさんが座る形になったのだが、じーっとわたしたちを見ている彼女に気付き、「何?」すると彼女は、「あなたたち、お似合いだわ!」
あら、ありがとう。と言いながら、ちょっと不思議に思う。なぜって、その前に彼女、わたしたちのことを「あなたたち、変なカップルよね、結びつかない」とか言っていたから。
そう言えば、なんちゃって家族写真を送った友人のひとりから、「家族みんな似てる」という言葉をいただき、とても興味深かった。人間、長く一緒にいると、どこか似てくるのだろう。ひとりひとり違っていても、一緒にいることで、何か別の、塊としてのエネルギーみたいなのが造られるのかもしれない、良くもあり、悪くもある、何か。
うむ・・・出来るだけ、「良い」ものにしていきたいものだ。出来るならば、大声で言い合ったりせず、穏やかに、素直に、お互いの気持ちを伝え合って。ははははは。