翌4月24日。
天気がとっても良いので、犬たちに早めに食餌をあげて散歩へ。
Bruceはこの日も動きがのそい。それでも散歩へは行きたがるので、最近はもっぱら近所を1ブロックだけ歩かせる。そしてBruceだけ先に一旦家に戻し、D&Cは引き続きそのまま長い散歩へと連れて行く。これがいつものルーチンだ。面白いことに若い衆の2頭、Bruceと一緒のときはのろのろと歩いてくれる。てんで考えてないように見えても、どこかでBruceが年寄り犬だということを知っているしリスペクトしているのだろう、たぶん。
上天気の快晴。本当に綺麗な日だったのと2日連休だったのもあって、D&Cと意欲満々に出かける。とりあえずマラカイの方向とは別のほうへ向かってずんずん進んだ。
そうだ、今日はBike
trailのほうへ行こう!と思い立つ。家から東のほうへ、公園を超えハイウェイを横断し、その先へ。途中、小学校にさしかかる手前で笑顔の女性に声をかけられた。(その女性がわたしたちのほうへどんどん近づいて来たので、マズい
なぁ、、と思い、あえて道路の反対側へ移動するところだったのだけど)
「えええ、こんなところまで歩いて来たの!?」
一瞬、誰に喋っているのかわからなかった。はぁ?ちゅう感じ。わたしのこと知ってるの?それともうちの犬のことを知ってるの???
すると、その女性曰く、彼女はうちの近所をもっと西へ過ぎたところだかに住んでいて、わたしたちが歩いているのを「よく見かける」のだそう。
「あなたたち、本当に幸せねー」
彼女は犬たちにそう話しかけていた。それから「あなたはこの町の中で最も健康的なひとだわ!」と、わたしに言う。いや、たいした距離じゃぁないと思うのだけど、、、どう答えて良いのやら、どぎまぎ。「あなたも犬たちも健康そのもので最高にしあわせ!」アメリカ人特有の言い回しなんだろうけれど、なんとも大袈裟に大賛辞されて恥ずかしい。
彼女との会話で、ちょっと気を良くしたわたし(ははは、)Bike Trailに入ってから南へと更に進み、1マイルの表示の辺りで引き返した。そのまま旧駅跡まで戻り、up-townを通って家へ。距離にしてどれくらい歩いたことになるのだろう・・・時間にしてちょうど2時間くらいか。
帰り道の途中、ある女性に声をかけられた。
「こんにちは。あのね、もううちの犬があなたたちを困らせることはないからー」
え?驚いて、そうっと訊ねてみる。「あの、もしかして・・」
「そうなの、彼女ね、亡くなったの」
その家の前庭にはいつもGレトリーバーがいた。彼女はとってもおとなしい犬で、うちの犬たちにおっとりと近付いてきては挨拶し、お母さんに呼ばれるとゆっくりと戻っていく、そんな子だった。芝生が好きで、風が好きで、いつもひなたぼっこをしていた。
「腎臓を悪くして、体重が落ちてね、、、」最期のほうはそういう状態だったらしい。
家族の一員を失くすのは本当に、本当に、辛い。わたしたちも2年前に愛犬を失くしたこと、そしてもう1頭の犬はそろそろ終わりが近付いていること、などを伝えた(Bruceがいちばんその子と親しかった)。
翌日、仕事から戻った夫にこの話をした。彼も驚き、ふたりしてしんみりとしてしまった。犬と暮らしている限り、いつか迎えることとはわかっているのだけれど。
ここで暮らし始めて丸6年が過ぎた。その間、散歩途中で出会う犬たちの顔ぶれも変わった。いつも見る犬がいなくなると、なんだか心配になる。見た目で大体の歳が予想できるので、もしかして、、、と思ったりもする。何か出来るわけでもないが、どこかで気にしているのだ。
マラカイのこともやっぱり気になる。何度か実際に関わっているので、余計に。
この日は夫と一緒に散歩へ行った。夫がDeweyを、わたしがCosmoを引いて。ふたりだったので、マラカイの家の近くもコースに入れた。時間帯もあったのだろうが(まだ学校の時間)マラカイの姿は見られなかった。声もしない。昼寝している頃か。
よくよく見ると、この前あの少年が遊ばせていたのは彼の隣の家の敷地だった。夫が指で示しながら、マラカイはあそこのフェンスの奥のほうにいる筈なんだけどね、と説明する。隣の家の敷地でも遊ばせてOKなんだ・・。軽く驚く。あぁでも隣にもGシェパードとBCレトリーバーがいるから犬仲間には寛大なのかもしれない(Gシェパードのほうは敷地内に放されていることが多い。invisible fenceになっているらしく、うちの犬たちに激しく吠えながら駆け回っているが近くまで来ることはない)。しかしマラカイだからなぁ・・・迷惑かけてなきゃいいけどねぇ・・・。そんな話をしながら歩いた。
たぶん、あの少年がマラカイを欲しがったんだと思うよ。夫が言う。
で、お父さんはそんなに乗り気じゃなかったのに、子供に言われて渋々マラカイを飼い始めた。お父さんはたぶん犬のことは好きなほうではないかも。でも少年は、自分が世話するから!とか言って押し切った。仔犬の頃はまだ良かった。が、マラカイはだんだんでかくなって、少年よりも力が強くなって、少年は躾なんて出来ない。そうやって時間が過ぎてって、いつしか少年も成長し、もちろんマラカイのことは大好きだけど、だんだん、友達とかスポーツとかゲームとか、そういうのに忙しくなってきた。で、ますますマラカイのことはおざなりになってしまう。しかも親は協力はしてくれない。そもそもマラカイは少年の犬だろう、ってことで。
ちょっと待ったー!わたしは思わず吹き出してしまった。をいをい、それはすべてあなたの想像でしょう。夫は、まぁ、そうだけど・・・かなり当たっていると思うよ、と言う。まぁー勝手にそんなことまで想像しちゃって!夫はその後に付け加えなかったけれど、たぶんこう思って(想像して)いる。いよいよお父さんがもう我慢出来ない、と言い始め、少年もまたマラカイに手を焼き、自分のことでますます忙しくなって、ついにマラカイを手放す決心をしてしまう。町のシェルターにいつかマラカイが入ったら・・・そのときは僕らが引き取るしかない、縁があったのだ、あの犬とは。
Cosmoとは相性が悪過ぎるよ。わたしの言葉に夫はぎくっとしていた。
あの晩、きったないマラカイをとりあえず家の中に入れてみようと思って犬たちに会わせてみたけど、酷かったんだから。特にCosmoはヤバかった。Deweyは吠えるだけまだいい。でもCosmoはサイレンスだったからね。あいつ、狙ってたんだよ、あの動きは本当にヤバかった。自分でもよく止められたな、と思う。恐怖が後から来たのが良かったのかもね。
うんうん、と聞いている夫にとどめを刺す。
Cosmoが来たときのこと覚えてる?Dewey完全にまいっちゃったでしょう。あんなに回復してたDeweyのことをあれだけ完璧に後退させたのはCosmoの存在だった、ってこと、忘れないでよ。
正直なところ、Cosmoやマラカイはどうにでもなると思っている。あの晩は引き合わせたときの状況が悪かった。わたしが暗闇のなかで得体の知れない他所の犬に時間をかけていたせいでわがままCosmoはテリトリー意識がかなり高まったのだろう。なので、うまく引き合わせれば、それなりに慣れると思う。でも、Deweyは別だ。Deweyはうちに来るまでの環境がわたしたちが思う以上に劣悪だったのだろう、トラウマを抱えたままでいるのがわかる。変な話、Cosmoやマラカイの天真爛漫とも言えるわがまま?無謀ぶり?をDeweyに少し分けて貰いたいくらいだ。
「でも、あの少年がマラカイを手放すことはないね、きっと大丈夫」夫はそう締めくくった。わたしは、そうだといいな・・・と、心から思った。
その後、ふたりでBruceを迎え入れたときのこと、歩くこと、遊ぶことを知らなかったこと、大きくなるにつれやんちゃになっていったこと、かじられたカーペット、盗み食いされたステーキ肉、目の前でパクッと食べられたチーズケーキ、バックヤードから逃げ出したこと、大捜索したこと、などなど、思い出話に花が咲いた。あの頃のわたしたち、もしかしたら今の少年とおんなじかもしれない。いや、フェンスで囲まれたバックヤードに放すことで安心しきってた、思いっきり怠惰なオーナーだった。そして今もあの頃とさほど変わってはいないのかもしれない。
まぁ一応それなりに勉強(もどき)はしているつもり。と、言いながら、犬関連のTVを見たりブログ記事をせっせと読んだり書いたり、しているのだ。ははははは。